会長挨拶

謹啓 末枯野美しき晩秋の候、皆様におかれましては益々ご清栄のこととお喜び申し上げます。平素は格別のお引き立てを賜り、心より御礼申し上げます。
このたび、神戸大学大学院医学研究科外科系講座災害・救急医学分野は、日本外科代謝栄養学会第56回学術集会を2019年7月 4日(木)から 6日(土)まで神戸国際会議場にて開催させて頂くことになりました。神戸大学としましては、私の出身医局(現在も在籍中です)の神戸大学 第一外科の光野 孝雄名誉教授が有馬グランドホテルで第9回(1972年)を主幹して以来実に47年ぶりです。伝統と歴史のある本学会の会長を神戸大学の名のもとに務めさせていただきますことを大変光栄で名誉あることと感激しおります。会員の皆様方に厚く御礼申し上げます。

私は、昭和62年に山口大学医学部を卒業し、神戸大学第一外科に入局後、4年目に1年間帝京大学救命救急センターに出向させていただき、そこで、小林国男教授、長谷部正晴助教授に出会い、外科侵襲後の代謝や免疫応答をご教授いただき、大変刺激され、神戸大学外科に戻り、肝代謝グループで侵襲学の研究に従事するきっかけとなりました。また、私のアメリカ留学の直前の1997年7月9日〜11日に小林国男教授が主幹された第34回の本会の懇親会では、当時私がバックバンドを努めておりましたデビュー直前の女性シンガーとともに演奏をさせていただきました。その会場には、留学先のボスであるStephen F. Lowry先生(Robert wood Johnson Medical School Department of Surgery)が来られており、初めてお会いしてご挨拶をしたのですが、後々までLowry先生が私をご友人に紹介するときにはいつも枕詞で「ジョージは初めて会った時にギターを弾いていた」とお話になっており、また大勢の教え子の中でも格別に扱ってくださる大変良い機会となりました。このような経緯で、私は、神戸大学肝代謝グループ、Lowry研究室、兵庫医科大学救急・災害医学講座、神戸大学災害・救急医学分野で、外科手術における代謝と栄養学、および侵襲学の重要性について学び、多くの仲間たちとともに代謝・栄養・侵襲学の研究を進めて参りました。

昨今では外科手技や周術期管理の進歩とともに安全性が著しく高まりましたが、一方で患者の高齢化、併存症の存在などにより思わぬ合併症に直面することも多くなりました。このような症例では、代謝や栄養療法が合併症発生の抑制や長期のQOLに大きく影響します。本学会は、まさにこのような外科侵襲に係る侵襲反応・免疫応答の研究の潮流の原点を作った学会であり、代謝学、栄養学、侵襲学を同時に学問する唯一無比の学会であると思います。さらに、私が外科医人生の後半を過ごしております救急医療の分野では外科以上に重症症例が多く、本学会は外科医のみならず救急・集中治療に関わる医療者の方々にももっと広く門戸を広げて行くべきではないかと感じています。

このたび学術集会のテーマは、『エビデンスを超えてゆけ!』としました。これは、並行して開催する外科侵襲とサイトカイン研究会の『エビデンスを掘り下げろ!』と対比させています。最近は治療の標準化が重要視され、エビデンスに基づいたガイドラインの作成が盛んです。診療現場でも特に若い人たちは「エビデンスがあるのですか?」という質問がよく出ます。私もいくつかのガイドライン作成に関わってきましたが、研究報告=エビデンスを抽出してメタ解析し、GRADEに従って評価して推奨を作成します。しかし、結局は、単にその治療を行うこと、行わないことが有効である、あるいは有効でない確率が統計学的に有意に(いくらかのパーセンテージだけ)高いということであって、しかし、眼の前の患者さんにとっては有効か無効か、0%か100%なのだと思います。もちろんエビデンスを知っていることは必須です。そのうえで、医療者の職人としての経験、信条(治療選択における考え方、哲学と言ってもいいかもしれません)、そして最後は責任をもつという覚悟を以て治療方針を決めるべきではないかと思います。患者さんにとってもそのような医療者こそ信頼できるのではないかと思います。そこで、本学会では、基礎的な研究や臨床的なエビデンスのご発表に加えて、さらにエビデンスを超えてどのように治療方針を決定するか、治療を進めるか、結果をどう捉えるかというテーマのご発表をしていただき、医療者としての心構えなども含めて活発な議論ができるようなプログラムにしたいと考えています。

最近は異常気象が当たり前になってきて、前回の会期中も記録的な大雨に見舞われ、大洪水や土砂崩れなども発災しました。被災された皆様には心よりお悔やみ申し上げます。また会場に到達できなかった方々もいらっしゃると思います。本会も同じ時期の開催となりますが、天候が良好であることを一生懸命お祈りいたします。しかし、大雨や猛暑かもしれませんので、会場にはぜひとも軽装、ノーネクタイでおいでください。多くの皆様のご参加を心よりお待ち申し上げるとともに、皆様方の温かいご支援とご協力をお願い申し上げます。

  • 日本外科代謝栄養学会第56回学術集会
    会長小谷 穣治
    神戸大学大学院医学研究科外科系講座 災害・救急医学分野 教授